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ひとりきりの。 [東京ラブストーリー]

師走に入り寒さもようやく例年振りにらしくなってきた。

私は近年繁華街に行かなくなった。というより行けなくなった。
若い頃なら、東京のあらゆる場所へ出没して業界の著名人とお会いしたものだった。

丁度バブルの真っ最中の頃で、勤務先の社長は『午後6時以降は酒を飲みながら仕事をしろ』と業界たる社風をかざし、終わりの見えない仕事に邁進していた。酒好きの社員は午後10時頃になるとベロンベロンになり、応接室のソファーで仮眠を取り、ゾンビの様に蘇り午前10時のプレゼンに間に合わすという信じられない神業を使って仕事をしていた。

私は、もっぱら酒ではなく今で言う”婚活”を芸能関係者とする為に仕事に勝負をかけていた。
そのため高校時代からのテニスは絶大な武器であり、よくある話のきっかけで”じゃあ今度テニスをご一緒に”と約束したものだった。私は、某大手メーカー(矢沢永吉のCMでおなじみ)の受付嬢と約束をし、新しいテニスウエアを買い揃え、コートを予約し、近所のレストランのキープも怠らなかった。

12月にテニスをする女性はかなりキャリアがあるか、テニス好きかのどちらか。私の不埒な行動はアメックスのカードをみるみる消費させたものだった。

”東京ラブストーリー”が流行り、街はカンチとリカのカップルで溢れ返りメディアはそれをあおった。私たちも同様であり、ただ”真冬のテニスコート”のシナリオだけはなかった。

二人.JPG












「このテニスでうまくいけば・・・」
冬の苗場プリンスホテル・ユーミンライブや彼女と行くヘリコプター東京ベイツアー、ジュリアナ東京など頭の中は来年のスケジュールで一杯になった。

毎日の仕事をマシンの様にこなし、ティップネスと日焼けサロンに通った。

”おお、これならいける!”なにがいけるか意味不明な言葉を発した私は、所狭い自宅の姿身でナルシストにひたっていた。

次の日メインクライアントであった吉祥寺、丸井の販促部を訪れDMとチラシの色校正の最終チェックをもらい店内の市場調査へ。ついでにデートの服装を物色する。

”赤いカード”の丸井のうたい文句は『支払い0のボーナス払いOK!』
私は、イタリア製48000円のフード付きのコートを買ってしまった。


幾日が経ち、頭の中の欠落アイテムは無いに等しい状態で約束の前夜に電話が鳴った。丁度、午後6時のニュースを見ながら夕食の支度をしていた。
銀鱈の照り焼きと豚汁を作ろうと電話を小耳に挟みながら、約束のHさんとしゃべり始めたが、なにやら話しの盛り上がりに乏しいHさん。

アマチュアゴルフ協会の会長をしているHさんの父親は大変厳格な方で、一人娘にはたいそう気にかけて育てられた経緯があると言う。多分、彼女は明日のテニスの事を正直に話し、結果”男”として”父親”としての審判を娘に告げたのであろう。

動転して詳しくは覚えてはいないが、長い沈黙と「ごめんなさい」という、か細い声が耳に残った。
12月のイブを前に、ティファニーのネックレスと請求書だけが残った。

TVからJR東日本の山下達郎が歌う”クリスマス・イブ”のCMが流れ、ローンレンジャーになった私のテーマソングに思えた。




毎年この頃になると私の笑い話のネタとして、人にしゃべるが、良い思い出だ。



今は神様から、いや妻からいただいた大切なクリスマスプレゼントがある。
12月生まれの10歳と7歳のやんちゃ盛りの大切な宝もの。

追伸:妻も(・・・)



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S_S

バブル時代は、まだ学生でしたので
「あの頃は良かった~」って話でバブルを聞きます♪
でも、背景がなぜだか目に浮びます…
ドラマチックな出来事…
良い思い出ですね♪

by S_S (2009-12-08 23:45) 

mirai

はじまめまして
苗場のキーワードで辿り着きました
なんか、当時の様子がきれいに表現されていますね。
頭の中に浮かびました!

ドラマチックな話しですし、最後の締めでちょいと感動しました。
また寄らせてもらいます!

by mirai (2009-12-12 12:49) 

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ひとりきりの。 [東京ラブストーリー]

師走に入り寒さもようやく例年振りにらしくなってきた。

私は近年繁華街に行かなくなった。というより行けなくなった。
若い頃なら、東京のあらゆる場所へ出没して業界の著名人とお会いしたものだった。

丁度バブルの真っ最中の頃で、勤務先の社長は『午後6時以降は酒を飲みながら仕事をしろ』と業界たる社風をかざし、終わりの見えない仕事に邁進していた。酒好きの社員は午後10時頃になるとベロンベロンになり、応接室のソファーで仮眠を取り、ゾンビの様に蘇り午前10時のプレゼンに間に合わすという信じられない神業を使って仕事をしていた。

私は、もっぱら酒ではなく今で言う”婚活”を芸能関係者とする為に仕事に勝負をかけていた。
そのため高校時代からのテニスは絶大な武器であり、よくある話のきっかけで”じゃあ今度テニスをご一緒に”と約束したものだった。私は、某大手メーカー(矢沢永吉のCMでおなじみ)の受付嬢と約束をし、新しいテニスウエアを買い揃え、コートを予約し、近所のレストランのキープも怠らなかった。

12月にテニスをする女性はかなりキャリアがあるか、テニス好きかのどちらか。私の不埒な行動はアメックスのカードをみるみる消費させたものだった。

”東京ラブストーリー”が流行り、街はカンチとリカのカップルで溢れ返りメディアはそれをあおった。私たちも同様であり、ただ”真冬のテニスコート”のシナリオだけはなかった。

二人.JPG












「このテニスでうまくいけば・・・」
冬の苗場プリンスホテル・ユーミンライブや彼女と行くヘリコプター東京ベイツアー、ジュリアナ東京など頭の中は来年のスケジュールで一杯になった。

毎日の仕事をマシンの様にこなし、ティップネスと日焼けサロンに通った。

”おお、これならいける!”なにがいけるか意味不明な言葉を発した私は、所狭い自宅の姿身でナルシストにひたっていた。

次の日メインクライアントであった吉祥寺、丸井の販促部を訪れDMとチラシの色校正の最終チェックをもらい店内の市場調査へ。ついでにデートの服装を物色する。

”赤いカード”の丸井のうたい文句は『支払い0のボーナス払いOK!』
私は、イタリア製48000円のフード付きのコートを買ってしまった。


幾日が経ち、頭の中の欠落アイテムは無いに等しい状態で約束の前夜に電話が鳴った。丁度、午後6時のニュースを見ながら夕食の支度をしていた。
銀鱈の照り焼きと豚汁を作ろうと電話を小耳に挟みながら、約束のHさんとしゃべり始めたが、なにやら話しの盛り上がりに乏しいHさん。

アマチュアゴルフ協会の会長をしているHさんの父親は大変厳格な方で、一人娘にはたいそう気にかけて育てられた経緯があると言う。多分、彼女は明日のテニスの事を正直に話し、結果”男”として”父親”としての審判を娘に告げたのであろう。

動転して詳しくは覚えてはいないが、長い沈黙と「ごめんなさい」という、か細い声が耳に残った。
12月のイブを前に、ティファニーのネックレスと請求書だけが残った。

TVからJR東日本の山下達郎が歌う”クリスマス・イブ”のCMが流れ、ローンレンジャーになった私のテーマソングに思えた。




毎年この頃になると私の笑い話のネタとして、人にしゃべるが、良い思い出だ。



今は神様から、いや妻からいただいた大切なクリスマスプレゼントがある。
12月生まれの10歳と7歳のやんちゃ盛りの大切な宝もの。

追伸:妻も(・・・)



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S_S

バブル時代は、まだ学生でしたので
「あの頃は良かった~」って話でバブルを聞きます♪
でも、背景がなぜだか目に浮びます…
ドラマチックな出来事…
良い思い出ですね♪

by S_S (2009-12-08 23:45) 

mirai

はじまめまして
苗場のキーワードで辿り着きました
なんか、当時の様子がきれいに表現されていますね。
頭の中に浮かびました!

ドラマチックな話しですし、最後の締めでちょいと感動しました。
また寄らせてもらいます!

by mirai (2009-12-12 12:49) 

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